マット・カッツインタビューから、2009年のSEOを読み解く

公開日:2008/11/26
執筆者:sugane

 米国では、WebmasterWorld が主催するPubCon という検索エンジン・マーケティングのカンファレンスが定期的に開催されています。

 WebProNews では、先日ラスベガスで開催されたPubCon会場でGoogle の SEO 専門家であるマット・カッツ氏にインタビューした動画が公開されました。

(“Matt Cutts on Changes at Google,” 11/18/2008, WebProNews)

 インタビューで扱われたトピックは以下のようなものでした。

  • ランキングは死んだのか?
  • ユニバーサル・サーチの今後の展開は?
  • Googleの動画のクロール技術はどこまで来たか?
  • サブドメインの扱い:ホスト・クラウドに関して変更はあるのか?

 2009年のSEOを取り巻く環境を予測する意味で非常に価値あるインタビューですので、紹介いたします。

ランキングは死んだ?

 「Ranking is Dead.(ランキングは死んだ。)」

 これは、SEOコンサルタントのブルース・クレイ氏による、同カンファレンスのSEOセッション時の発言です。(同セッション後のインタビュー動画がやはり、WebProNewsで公開されています。)

 「ランキングは死んだ」という言葉でクレイ氏が意味するところは何かというと、検索エンジンのパーソナライゼーションや、ローカライゼーションが進むにつれ、同じキーワードを検索しても、ユーザー個々の検索結果がまったく違うものになってくる、検索結果のランキングが一つではなくなった、ということです。

 クレイ氏は「Java」というキーワードを例に挙げて説明しています。「Java」というキーワードを検索にかけると、コンピューター言語のジャバスクリプトを意味する場合と、コーヒーの豆を意味する場合と、ジャワ島を意味する場合がある。パーソナライゼーションが進むと、ユーザー個々の過去の検索実績によって、3つのうちのどれか一つに偏った検索結果が表示されるのです。

 だから、SEO施策者にとってランキングの意味はどんどん薄れていく。死んだも同然だ、と主張しています。

 「このクレイ氏の発言をどのように思うか?」とインタビュアーに聞かれ、マット・カッツ氏は以下のように答えています。

 ランキングが死んだとはもちろん思いません。でも、昔ほど重要ではなくなってきているのは確かです。

 ランキングは確かに、SEOコンサルタントがクライアントにひとつの成果として示すには都合の良いものです。

 でも、賢いSEOスペシャリストはもちろん知っていますが、検索ランキングよりもコンバージョン・レートやサーバー・ログというデータの方がもっと重要です。

 今後、パーソナライゼーションや、ローカライゼーションが進んでいくと、個々のユーザーが見る検索結果はそれぞれ違ってきます。

 だから、SEOスペシャリストはランキングに固執するのではなく、トラフィックやコンバージョン、そして良いコンテンツを作成することにもっと重きを置くべきです。「ランキングトロフィー」を掲げるのはそれほど、重要ではないということです。

 クレイ氏の「ランキングは死んだ」という言葉は過激ですが、クレイ氏も、カッツ氏も、「ローカライゼーション、パーソナライゼーションが進むにつれ、ランキングそれ自体の意味は薄れる」、というところで言っている内容は同じです。

 カッツ氏はコンバージョン・レートやトラフィックの質を重視するべきと言っていますが、さらに掘り下げて考えると、ニッチキーワードの重要性がより増してくるのではないかと、ぼくは思います。

 先のクレイ氏の例にで見ると、「Java」というキーワードで上位表示される意味は薄れても、「Java script」、「Java coffee」、「Java island travel」などの検索結果で上位表示されると、パーソナライゼーションの影響でより質の高いアクセスが期待できると思います。

 今後は、キーワードとコンバージョンの関係をより綿密に分析していくことが大切と言えるでしょう。

ユニバーサル・サーチの今後の展開

 「画像検索、動画検索などを組み込んだユニバーサル・サーチは今後も発展していくのか?」という質問に対する、カッツ氏の回答。

 ブログサーチにしても、画像検索、Bookサーチにしても、とっても使い勝手の良い機能です。このような機能は今後も発展させていくつもりです。

 ということは、2009年という年は、「このウェブページをこのキーワードで上位表示させる」というようなSEOという『括り(くくり)』の中だけで考えていてはいけない年になるでしょう。

 このカンファレンスで気づいたことは、SEOスペシャリスト達が、「自分達は『マーケッター』なんだ」という認識を一層強めているということです。

 どのようにバズ・マーケティング (ヴァイラル・マーケティング)を展開するか、 どのようにロイヤル・カスタマーを獲得していくか、どうやって ROI (Return On Investment、投資利益率)を最適化するか、さらには、どのようして良いビデオを製作するか、本も出版するべきか、というような幅広し視野で考えていく必要に迫られています。

 前項目のパーソナライズ化と、このユニバーサル化とで共通しているのは、今後益々、ターゲットユーザーの動向を研究し、ターゲットユーザーに合わせたコンテンツ作りを考えなければいけないということでしょう。

 そして、ユニバーサル化される検索エンジンの環境においては、テキストコンテンツだけではなく、画像、動画、書籍、なども視野に入れていく必要があるということです。

 ちなみに、バズ・マーケティングのバズとは「蜂が飛ぶときの音」を表し、ヴァイラルとは「ウイルス性」という意味です。どちらも「ユーザーの口コミ」で自然に広がっていくマーケティング手法を意味します。

 以前、このスピンブログ内で松尾さんが紹介していたバイラル・コンテンツという考え方も、このバズ・マーケティングの一環です。ソーシャルブックマークなどで口コミ的に広がり、リンクを集めやすいコンテンツです。(“バイラルコンテンツで集めるナチュラルリンク”)

Googleの動画コンテンツのクロール技術

 動画データのクロール技術に関しては、カッツ氏は以下のように答えました。

 ビデオサイトマップを作成してGoogleに送信してくれることは、我々にとって大きな助けになります。

 さらにGoogleは様々なサイトから動画を収集する能力があります。「グーグルはYoutubeに偏っているんじゃないか?」というのは誤解です。実際は、グーグルはmetacafeをはじめ様々な動画サイトから動画を収集しています。

 Googleは別にYoutubeを贔屓にしてるわけじゃなく、他の動画サイトもちゃんとクロールしているということを念を押しています。

 ただ、やはり、アクセス数から言って、我々マーケッターにとってはYoutubeに動画をアップするということは利にかなっているとぼくは思います。

 さらに、フラッシュ動画のクロールについて、「ファイルフォーマットはFLAの方が良いのか? SWFの方が良いのか?」という問いには以下のように答えています。

 特にフォーマットにおける違いはないでしょうね。ただ、iPhoneやAndroid phoneはフラッシュに弱いです。

 サーチエンジンのことだけを考えるのではなく、ユーザービリティを考えることが大事だということです。特に、今後はモーバイルユーザーを念頭においておくことは重要でしょう。

 フラッシュ動画を読み込むのに問題は無いが、モバイル端末での表示に問題があるのでユーザービリティを考えると好ましく無いという考えのようです。

 ちなみに、モバイルで表示するのはMP4が良いと言っていました。

サブドメインの扱い:ホスト・クラウドについて

 昨年のパブコンでは、サブドメインをどのように扱うかでの変更点がアナウンスされました。

 これは、ホスト・クラウドとよばれるもので、同一検索結果に同じURLを二つ以上表示しない、というものです。

 以前は、ホストクラウドはサブディレクトリのみに適用され、サブドメインには適用されなかったのですが、昨年からサブドメインも同一ドメインとして扱う、というようにルール変更されたわけです。

 これにより、サブドメインを使ってサイトを量産するということのアドバンテージが無くなりました。

 この変の事情は、鈴木謙一氏のブログに解説記事がありますので、参考にして下さい。

 この、サブドメインの扱いについて、「今後なにか変更点はあるか?」との問いに、カッツ氏は以下のように答えました。

 以前はサブドメインを使用することで、検索結果に表示される確立が高かったわけですけども、ホスト・クラウドが適用されるようになって、そのアドバンテージはなくなりました。これは検索結果の『多様化』のために行われたわけですけれども、我々はその結果に満足しています。今後も変更は無いでしょう。

 サブドメインが違っても、ほとんどの場合、運営者は同じなわけですから、サブドメインが違うだけのサイトを同じ検索結果に表示するのは検索結果の『多様化』に反するということですね。

 今後も、サブドメインに対するホスト・クラウドは継続するということです。

まとめ

 このインタビューの中で、特に重要なのは、やはり最初の2項目ではないでしょうか。

 検索エンジンのパーソナル化とユニバーサル化に如何に対応するか。

 そのためには、SEOとしての上位表示の技術だけでなく、幅広いマーケティングの視点がより重要になってくる。

 2009年はそういう年だと、このインタビューは予見しています。

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この記事へのコメント

2 Comments »
    Comment by pepe
    2008/11/26@11:36 AM

    アメリカの検索エンジンへの注目度の高さを改めて感じさせられました。
    あと、マットの返答に非常に好感を持ちましたね。
    このスタンスで検索エンジンを進化させていってくれるなら、この世から検索エンジンというものは絶対になくならないでしょう。人間は「知的探究心」を先天的に持っていますしね。
    何だか未来を明るく照らされた気分です。僕も頑張ろうっと!

    Comment by sugane
    2008/11/26@4:39 PM

    >>>人間は「知的探究心」を先天的に持っていますしね。
    いい言葉ですね。
    その知的探究心の手助けをしようというのが検索エンジンであり、
    その知的探究心に答えようというのがサイト作成者=コンテンツ供給者である、と。
    これが、インターネットのあるべき姿で、この考え方がぶれない限り、
    検索エンジンも、サイト作成者も生き残るでしょうね。

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